先ず、一般論を語らせてください。私も散々言われた事です。「出版の世界は新卒を取らない。出版一本で就職活動をすれば地獄を見る。決してやるな。やるならバイトから入って下積みしていくのが近道だ」確かに。世間一般には地獄の日々かもしれません。酷く辛い選考に加えて、落ちたら何のフォローも無い。しかも大多数が落ちるのですから。「本を読むのが好き」と、「本を作るのが好き」は違う。「本を作れる」のは違う。
【はじめに】
出版社を数十社見てきた身、まがりなりにも出版業界に籍を置く身としましては、
就職活動はお見合いだと思っております。
いかに自分が好きでも、相手にその気が無いかもしれない。
身体的美醜よりも家庭的な女性が好きな男、粗暴な男性が好きな女性。
色々あるわけです。
履歴書というお見合い写真と、添え状(エントリーシートや各種課題)でもってそれを判断し、お会い頂ける場合もあれば、縁が無い場合もある。
あんまり考えてると、どんどん惨めになりますからね。深く考えない事です。何か、10社くらい受けて(どんな企業かは知りませんが)全滅で自殺を考えている輩が居るとか言ってますけど、全然足りないよ。自分は2年間+転職活動で70社(もっとかも)は受けた。潜り抜けてきた選考の数はゆうに200~300だろう。
書類選考から始まって、課題2回、面接4回、実技試験、ペーパーテスト。
こんな選考も幾つかあったし、そこまでやって最終面接でウルトラスーパースター級(有名雑誌の編集、マサチューセッツ工科大、東大、早稲田(院)、法政←オチ担当の腕の見せ所!)が並んで、ヤベェ!どうやって落とすか!!とか空気読んだりしたわけです。何度もありますよ。こんなこと。
でも、ついぞ辛いとは思いませんでしたね。夢を追っているからとかそういう事じゃなく、根本的に楽天家なんですよ。今までどんなにヤバい状況でも何とか生き抜いてきたし、今回もどうにかなるだろ。と。人生の浮沈を鉄火場で散々見てきたからなんでしょうかね。どこか冷めた部分がある。アツくなった奴から身包み剥がされますから。勝っても負けても涼しげな顔をしていれば、いつかはツモるわけです。
落ちても泣かないし、受かっても喜ばない。
念じて通る物でもないし、落ちる物でもない。
やるべき事だけやれば良い。それで駄目なら縁が無かった。という事。
特に出版なんて物は酷く「即戦力」を求めますから、際立った文才や企画力、プレゼンテーション能力を求めてきます。
出版は水物なのです。それは、人材の獲得の段階から水物です。大博打を打ち続け、しかもコンスタントに勝てる超一流「馬券師」のような、神がかった人間を求めています。際立った感性、鋭い洞察力、分析力。加えて、オリジナリティ溢れる攻略法を持っていること。つまりは、独特の切り口で物事を考え、それを企画化、本に出来るスーパープレイヤーでなければならない。
水物だから誰を入れてもいいというわけにはいかないのです。水物だからこそ、少しでも勝率を上げられる人材が欲しい。入社してから本を読んで勉強します!では話しにならないわけです。だからこそ、無理難題を吹っ掛けてきます。例えばこういうものがあるので、心づもりだけしていてください。
※以下に様々な選考の形式をまとめた物を用意した。
その選考についての情報や対策を知りたい方はそれぞれのリンクから先に進んで頂きたい。
◇なぞかけ作文
◇ストーリーテラー選考
◇取材作文
◇速記力試験
◇企画力試験
◇出版社面接
◇その他
【さいごに】
編集者は難しい仕事だ。そんな事は分かりきっているはず。だが、分かっているつもりの人間が非常に多いのが問題で、そういった甘さを選考では徹底的に突かれてボロ雑巾にされてしまう。真摯に向き合い、これで良いだろうと考える甘さを捨てなければ、入社後に酷く苦労する業界だ。入れない地獄よりも、入ってからの地獄の方が厳しい事も付け加えておく。本当に人生を投げ打ってでも受けたい、入りたいと思うならば、「これくらいで良いだろう」とは思わないはずだ(私は思っているが)。努力や苦労で入れるものでもない。
しかし、努力しないで入れるものでもない。雲を掴むような話だが、それが水物だ。真剣に悩みぬいた結果が出版の道ならば、最早退路は無いだろう。妙に逃げ道を作るな。自分は賢いんだと思える聖域を作るな。賢い奴はウジャウジャ居る。悩んで悩んで答えが無い中でもがく事にこそ意味がある。自分は卒業論文で誰もやっていない分野を研究する中で、一つの考えを得られた。日々悶々と生きる中に活路があったりもする。人と違うことをしてみるのも良いだろう。
皆の未来に幸多からんことを。
【ぶち壊しの大蛇足】
さて、ここまで手の内を晒したのは他でもない。こういう情報は秘匿されがちだからだ。
有効に活用していただきたい。
しかし、同時にこういった情報が広まれば、選考は更に困難を極めるだろう。
私自身、今後どうなるか分からないが、より面白い本を作れる、意識の高い編集者が出てくれば、編集者としては脅威だが読書家としては歓迎すべきことだ。酷くジレンマではあるのだが。
まあ、私は隠し事が好かんので言ってしまえば、
これだけ社会貢献した大人物なのだから、私が作った本を買ってね!
という要素も5%くらいはある。
出版不況だからと、経営努力をしない代わりの言い訳をする企業も多い中、
良い本を出している会社は幾つもある。どうか本を見捨てないで欲しい。
下らない内容だと決め付けるのはまだ早い。ブランドで本を買ってくれるな。
自分を満足させる本があるのと同様に、自分が心底惚れ込める出版社もある。
道が開けるまで何となく希望も捨てずにダラダラしてみるのも一考だ。
焦ってはいけない。5年生の2月(2010年2月)から就職活動をして、見事実らせた(2010年春入社)人間がこの文章を書いている。速いも遅いも無い。(大手は〆切が速いが)時が解決する場合もあるし、長いこと就職活動をすれば良いというものでも