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「FREE」すべてを破壊する波 - 電子書籍とフリー試論 –

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はじめに
このコラムを読んでいただいた方に、これだけはお伝えしたいことがあります。
「FREEは値段がFREEになるのではない。価値がFREE(ゼロ)になるのです」 

無料、フリー。心地よい響きです。
これほど資本家を苦しめ、貧乏人が歓喜するものはありません。
フリーがすべてを幸せにするという論が世の中を席巻、蔓延して暫く経ちますが、
フリーへの熱い眼差しは変わりませんし、むしろそれが当然となっております。
消費者、顧客という言葉はフリーライダーに取って代わられ、
多くのクリエイターや企業を苦境に立たせています。
今や、高品質で無料なのは当たり前。それだけでは「批判」されてしまうのです。 


もう一度お伝えいたします。
「FREEは値段がFREEになるのではない。価値がFREE(ゼロ)になるのです」

某動画サイトのように、一流の人間が作った無料作品でも、
「もっといいものを見たことがある。こんなものは価値がない」といわれてしまう時代。
我々はFREEの衝撃によって、どれだけの才能、努力、人材を破壊しているのでしょうか。
このままでは、新しい芽を摘むだけではないのかと。

物の価値がフリーの時代。このフリーライダーたちの攻撃をかわす手段はありません。
金も出さないような連中と一蹴できなくなってしまいました。
彼らは金は出さずとも、口を出します。それも、あらゆる場所で。
否定的な意見が増えれば、商売をしているわけでもないのに汚名を着せられ、
余計な負担を抱え込まなければならなくなります。こんなバカらしいことはありません。
フリーとは、持たざる者による、ゆるやかな革命です。合法的な秩序の破壊なのです。

あなたが稼ぎのある身分なら、自分の仕事の対価がFREEといわれれば怒るでしょう。
あなたが稼ぎのない身分や、まだ子どもで稼ぐ必要のない身分でしたら、あなたの親や
親族、家計を同じくする人物の稼ぎがFREEといわれてゼロなら、怒りませんか。
これは、音楽やゲームソフトの違法ダウンロードやコピーの問題にも通じますね。
正当な対価を支払え。それが現状、資本主義のルールです。

さて、まだまだ書きたりませんが、電子書籍の話をしなければなりませんので、
ここで一区切りとします。

最近、電子書籍市場の成熟がはじまっているという見解を出される方も出てまいりました。
電子書籍市場を取り巻く構図というのは、利権をむさぼる出版社と、困窮する作家、
作家を助けたいという義憤に燃える読者や安く手軽に読めればなんでもいいという読者、
果ては法やルールすらフリーの前には意味をなさないという熱狂的なフリー信奉者のという
ものになっております。ここに、電子書籍リーダーを開発する企業や広告代理店、IT企業が
焚きつける形となり、数の論理で出版社側が押されているという状況。
もっとも、出版社側が有効な手だてを講じず、単に利権を守っているようにしか見えないことも
大きな要因ではあるのですが、なんにせよフリーの衝撃が出版業界を完全に更地にしようと
しているのは確かです。

ネット上には電子書籍、フリー賛成派による電子書籍での出版のメリットばかりが書かれます。
人数的に多いわけですから当然ですが、出版社側からアレコレという人間は数えるほどの
ように思います。少数派にしても少な過ぎるのです。忙しさにかまけていたり、
きっとどうにかなると思っている人間が多いのでしょう。
しかし、どうにもならない問題です。この衝撃は時間が解決する類いのものではありません。
出版社がどのような働きをし、作家を育て、本を売ってきたか。
これを伝えなければ、読者は作家が書いたものを印刷するだけなのに、
出版社は中抜きをしているアコギなヤツの伏魔殿だと思われて終わってしまいます。

ここで詳細は書きませんが、出版社は出版物の品質を保つ門番です。
最近はそれも崩れてきていますが(低劣な本の方がよく売れて利益率もよい)、
それでも編集者の中には高潔、誠意を胸に出版に携わっている者が多数おります。
彼らは、作家を育てる仕事もしているのです。また、よりよい構成になるように、
作家の意図を汲み取ったり、話の筋道をスッキリさせたり、章立てを入れ替えたりと、 
一般の消費者が思う以上に本に関わっているのです。
編集者は第二のブレーン、作家にとって外部の記憶媒体であり、情報端末なのですが、
作品の中で触れられることもありませんし、読者には無駄なものと考えられているようです。

では、編集者がいなくなればどうなるか。作家は好き勝手書くことができるでしょう。
その代わり、当たり外れの差は激しくなります。編集者は外れをなるべく失くす仕事です。
電子書籍とことなり、印刷費がいるのですから、リスクを負います。
数百万円もの印刷費、これを編集者は担当書籍ごとに負債として抱え込むのです。
数万部売れれば余裕のペイで編集部内を肩で風をきって歩けますし、
てんで売れなければ、会社に損害を与えた戦犯です。
誰の目にも明らかな結果が出てまいりますので、編集者は必死になるのです。
この本を出版したい、この作家の本を出したいという情熱と、責任の板挟みにあいながらも、
本をつくるということに意義と誇りを感じているのです。

しかし、電子書籍にはこれがない。情熱はあってもリスクがない。
あったとしてもごくごく僅かで、書いた人間だけが負えばよいということになります。
これは本当に読者を幸せにするのでしょうか。
品質の低下は間違いなく起こります。
他人のコンテンツを無断で失敬してしまう者も出るでしょう。
しかし、現状の電子書籍の枠組みには、品質の担保もモラルや慣習に頼らない明確なルールも
ありません。以下のような問題が発生することは火を見るより明らかです。

・パクり、捏造なんでもありの広告収入や布教活動が目的な捨て身の無法者
・慈善団体のようなありがたいフリー団体による価格、市場破壊
・紙媒体で有名な作家、作品の優遇と有象無象の無視
・上記に伴い新人作家の育成、売り込みが困難となる市場の固定化

電子書籍を販売する側としては、売れる人間が欲しいわけです。無名な人間はいりません。
売れるコンテンツが必要なわけです。売れるかどうかわからないコンテンツはいりません。
というよりも、そういうものは検索で上位に上がってきませんし、ランキングにも入りません。
ランキングを席巻するのは、エロ、グロ、ナンセンス。昔に流行った類いのものと、
価格破壊やカルト的人気によって操作された、作品としての価値とは無関係なものばかりに
なるのではないかと予測します。

役立つ情報をタダで提供。広告を読んでくれればそれでいい。
どこかの誰かが紙で出版した内容やネットの情報を改変して出版、105円で提供するなど。
こうなれば致命的。従前の出版業界は死に絶えます。
コンテンツの囲い込みや、コピーへの対策などではこの流れを止めることはできません。
出版業界は、今、手元にあるものを後生大事にしたところで、確実に殺されてしまうのです。
それが時代の流れといえばそうなの

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