電子書籍の登場により、出版物の品質は上がる。しかしそれは上澄みだけである。読者の皆様に注意して頂きたいのは、(編集者がこんな事を言えば守銭奴な経営者から何を言われるか分からないが)良い本を見極める力と時間を確保するということである。
【本文】
3種類の色の中から1つを選ぶのは簡単であるが、16777216種類のトゥルーカラーの中から1つを選ぶのは難しい。酷く時間もかかるし、選んだ後にどうにも不満を覚えてしまう事もあろう。結果として、誰かに選んでもらいたくなってしまうのが、我々人の常。そこに出てくるのがやはり巨大な資本。大企業ということになってしまう。
絨毯爆撃によって更地になったにも関わらず、誰かが再建してくれるだろう。と待っていたのでは、今よりもずっと巨大資本にとってオイシイ市場が生まれてしまいかねない。インターネットサイトの検索と同じで、ユーザーは検索後表示される上から3つより先は見ない。これと同様に、言われたままに本を買うことになるかもしれない。書店店員といった良心も居なくなる。オススメ情報を共有する事も難しくなろう。ただでさえネット上では企業による工作活動が花盛りだ。電子書籍とネットの親和性は高いと考えられる。本を買おうと思った瞬間から、企業によってあなたの四肢はがんじがらめにされるかもしれない。読者の皆様方が主体的に本を選べるようになること。自分の眼力を信じる事をゆめゆめ忘れないで欲しい。本当に良い著者の本を見つけたければ。
ここまで強く言うのは、本屋では本を見なくなるからである。書店に立ち寄る。ふと目に飛び込んでくる本がある。なんとなく手に取ると、なかなかに面白い。興味が湧いた。小脇に抱えて歩き出すと、平積みになっている本がある。手に取った本となにやら関連性がありそうだ。内容も悪くない。こちらもいただいておこう。
気がつけば、本来買うつもりだった本を忘れ、何冊も本を抱えてレジに並んでいた。などということは、本好きならばよくある事ではないか。これが、電子書籍に頼りきりになると無くなる。活字中毒者の方はゾッとされたのではないか。あの心地よいハードブック数冊の重み、あれももう味わえない。まさか、そんな!と言われても仕方ない。読者の眼力が不足すれば即ち、企業の言いなりに本を買うことになる。中小零細の出版社の本は売れず、良著は死んでいく。
つまるところ、皆様次第なのです。出版社を悪の秘密結社ように捉えていられるのも今の内。読者の眼力不足で爆撃後に平定されてしまえば、悪の秘密結社の本以外出てこないのですから。小口やアマによる本は埋もれ、金と人材に物を言わせたヤツが勝つ世界になりかねない。それは読者様も望まないところではないかと考えている。
【蛇足】
私のような種もみ爺は、モヒカン軍団に勝てんのです。胸に7つの傷の男も助けに来てはくれません。悪いヤツを倒せる救世主が電子書籍だと安易に思ってはいけません。胸に7つの傷の男は最終的に世紀末覇者と和解するんですから。電子書籍と大手出版社がネットを覆いきったら誰ももう手出しできません。