シリーズアキバ

マンガ家(作家)を目指す君へ

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マンガは画力だ、ストーリーだというが、それだけでは一本立ちできる職業作家には
なれない。そんな簡単な話ではない。最近は特に「ライフハック」のような効率性が
重視される。確かにそれらは大切だし、磨いておきたい部分ではあるが、漫画家にな
ろうという段において、効率的に成功する方法などというものは現状、存在しない。
加えて、これこれここまでできていれば合格などというものもない。編集の道を歩ん
できた人間だからわかる。編集者のその日の体調と気分で、合格ラインなどはいくら
でも変わる。その日の天気が雨であるというだけで変わる。そんなもんだということ。
だからこそ、「漫画家になりたいんだけど、何をすればいい?」というスレだの、
「どれくらい練習すれば作家になれますか?」だのなんだの知恵袋で聞いてはいけな
い。それよりも大切なのは「あなた自身の人間性」である。

 


編集者も人の子である以上、人として立派な人間や、これから努力して伸びていくで
あろう人間は、応援したくなる。まともな作品でなくとも、章立てを調整したり、参
考文献を手配したり、文の流れをアドバイスしたりということが編集者の仕事であり、
漫画家にすべて丸投げということはなかなか無いはずだ。

もっとも私は主として書籍畑の人間で、マンガの現場がどうなのか詳細までは語れな
いが、一部の無能編集と大作家を除いて、編集者と作家(デビュー前の素人)は、二
人三脚になるはずである。ネット上ではどうにも心ない人間らが編集無用論を唱え、
電子書籍の普及を目指すIT、家電業界が出版システムの破壊を狙って動いている節が
あって、そこにつけ込んできているようだが、編集がいなければ市場の管理機能が崩
壊し、出版の世界は野放図になる。口コミだけでメシが食えるほど定期収入があれば
いいが、きっとそうはいかない。定期刊行の雑誌だからこそ浮かぶ瀬もあるのでだか
らして…

話が脱線してしまったが、つまるところ作家にとって最大の関門は画力でも、ストー
リー性でもなく、編集者なのだということ。その壁を突き崩すのは、あなた自身の人
間性だということだ。

かつて、絶望的につまらないマンガを少年ジャンプで連載していた作家がいた。
当時誰もがこの作家はダメだといっていた。オタクだけでなく、作家を目指している
という人間や、アシスタント経験者もその中にはあった。しかし、仲間内で私だけが
「話はつまらないし、絵の描き方もメチャクチャだけど、場面の見せ方というか、書
き手が一生懸命なのは伝わる」と論評した。当然、仲間内では失笑され、当たり前の
ように打ち切りになったその作品の話題になる度、私はしばらく弄られ続けた。その
作家は最近まで、ライトノベルの大家の原作でアニメ化までされた学園物作品を連載
していた。

単に画力が優れていたから任されたのか。恐らく違う。絵だけ描ける人間はゴマンと
いる。イラストレーターと漫画家の決定的な違いは、読み手がページをめくりたくな
るかどうか。イラストレーターは一枚の絵で完結するが、漫画家は次が知りたいと思
わせる何かを持っていなければいけない。それを生み出すのが、人間性なのだと思う。
絵に力があった。誰かの真似でも、小手先の技術論でもなく、俺はこういう絵を描く
んだ、俺はこういう作品を描きたいんだという説得力があった。だからこその抜擢で
あったのではないか。

圧倒的な存在感、絶対的な自信、他者に意見させない説得力。それらはどうしたら得
られるのか。ネットの掲示板に転がっているだろうか。それらを得るには、人として
の経験や体験、覚悟がどうしても必要になる。単に年を重ねればよいというものでは
なく、ただただ邁進(まいしん)してきた者にのみ与えられる境地に近い。

人としての深み、コクというか「澱(オリ)」のようなもの。これを編集者は見て、
可能性の有無を推し量っている(ような気がする)。私自身、数万部の書籍しか売っ
たことがなく、マンガのように億単位で売れる作品についてはわかりかねる部分も多
いが、やはり、磨けば光ると感じる人には深みを感じ、それを可能性だと認識してき
た(気がする)ので、それはマンガでも文芸でも変わらないのではないか。だとすれ
ば、これを言葉で形容するならば、人間性以外に適当なものが見当たらない。「才能」
としてしまっては、後天的に獲得したであろう「人間的コク」を表すに適当ではない。

ここまでをまとめれば、ふたつの人間性が作家を生み出すということになる。ひとつ
は、人として応援してあげたいという人間性(性格)、もうひとつが、それまで歩ん
できた生き方から生まれる人間性(人のコク)。このふたつがなくても作家にはなれ
るが、職業作家としての成功はありえない。

簡単に得られるものではない。だからこそ、簡単に奪われるものでもない。編集を経
験した者は、ひとりの素人を作家にすることに恐怖を感じる。なぜならば、その人間
の後の人生を大きく狂わせることになるからだ。夢を見せてしまったがために、後の
人生を破滅と隣り合わせで生きていくこととなった人間がどれほどいるか。我々の頭
からは瞬時に消え去る打ち切り作家たちのなんと多いことか。編集者は責任をとるか
どうかはさておいて、ひとりの人生を背負う仕事である。彼らに背負ってやりたいと
決意させるなにかがなければ、職業作家としての成功はないのである。



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