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『ミノタウロスの皿』(藤子・F・不二雄)#013

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藤子・F・不二雄異色短編集1、ミノタウロスの皿は、
ウシと人間の立場が入れ替わっている世界のはなしです。


二足歩行のウシがおり、人間はその食糧。
もっとも良質の食糧になるために人は競い合うという世界。
価値感がまるでことなるこの星に不時着してしまった彼が目にするものとは?
という、人類の業を感じさせる作品です。

私なぞは田舎の出身ですから、鶏や家畜の屠殺がどのようなものかを知っています。
多くの人は、それを残虐この上ないという。しかし、そうしてできあがったものを
食べているのはどこの誰か。家畜、家禽に限りません。魚もそうです。
まさか、切り身が海を泳いでいるとは思いますまい。
昔、「今の子どもは切り身が泳いでいると思っているらしい」などと話題になりましたが、
見たことがなければ知らなくて当然です。子どもの勘違いを鬼の首をとったように。
大の大人が恥ずかしい。

話が脱線してしまいましたが、まあ、人権だの博愛だのと口先だけでいっており輩が、
残酷だの残虐だのというわけです。
食っている肉、魚、もっといえば畑で育つ野菜類も、人間によって食われるためだけに
命を与えられるわけですから、家畜や養殖同様に残酷きわまりないと私は思いますがね。
アイアンシェフだのという、料理の鉄人の復刻番組は、魚をさばいたりするから視聴率が
悪いんだそうですよ。事実かどうかは別として、忌避されている気はします。
現代人は、命が奪われる瞬間を見ないことで、自分は綺麗な身だと思っている。
畜生以下の畜生です。

私は鶏の羽がむしられ、家畜の首が落とされ、食われるためだけに育てられ、狩られる
ものを食べて生きています。罪深いことです。業が深い生き物です。
しかし、その責任から目をそらすつもりはありません。
キリスト教では愛玩動物と、食用動物や畜生を明確に分けるそうです。
犬猫クジラは食べてはいけないが、牛豚はよろしいと。
私はこんな真似はいたしません。

殺す瞬間はいかにもおぞましいものです。自らの身に置き換えるからこそ恐ろしいのです。
本作の中では、不時着した星の家畜……見た目はまるで人類なのですが、
その中のメス(女性)に主人公は恋愛感情を抱きます。
彼女を助けるために奔走しますが、遂に彼女は食べられてしまうわけです。
しかし、彼はその瞬間に立ち会うことができませんでした。
そして最後に、救援の船に助けられた彼は、涙を流しながらステーキ肉をほおばるわけです。

実にケレンの効いたお話です。
私も、はじめて鶏をしめた瞬間をみたときは、気分が悪くなりました。
しかし、血抜きがなされて部位ごとに切り分けられると、それは旨そうな肉にしか見えなく
なるのです。命を奪ってしまったと心の中では思いながらも、旨そうだと思うのです。
食卓にこんがりと揚がった唐揚げや、照りの素晴らしい手羽先として並べば、
なんて美味しそうなんだと思ってしまうのです。
死の瞬間と完成した料理だけを見るからいけない。
死からどのような経路をへて、料理として皿に乗ってくるのか、
どこまでが死骸で、どこからが料理なのか。
これら一連の流れを見、理解すれば、食と死の考え方は変わると思います。
もっとも、慣れるまでは大変な苦労がある場合もありますが。

こんな経験をしていましたから、大学生のときに夕飯に民宿の庭で飼っていたカモが出ても
平気で食べることができました。学生たちは雨龍はキチガイだ、人の心がないんだと
口々にいっておりましたが、食べるということの意味もわからず、大人になったことを
恥じるべきだと吠えたことを思い出します。
(余談ですが、その日の食卓には、このほかにウミガメも並びました)

殺したその日は食えずとも、数日もすれば、スーパーの精肉売り場でパックの肉を
買うでしょう。飲み会の席でできてきた唐揚げを取り合い譲り合いするでしょう。
そういう善人ぶった行動、軽々しく忘れてしまうことこそが、いけない。
誰かのせいにしたい、自分は悪くないと、命を奪う責任をとらない現代人。
なんとも考えさせられます。

今まで見ようとしてこなかった心の闇がえぐり出されるような作品が
ミノタウロスの皿を含め13作。

『わたしのせれくしょん』

 

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