アキバ系雑談

ファストブック化の進行について ~本作りの現場から~

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akiou今更ですが、本って何だろう。自分は本を読む事は好きではありません。それで本を云々するなんてとんでもない事かもしれません。しかし、私は本を作ったり、読んで貰うことは人の何倍も好きです。私が読みたくない本は一般に読むのが億劫な本だとすれば、それは編集者としての武器になるかもしれません。

【はじめに】
私としたことが、権威的な事を言ってしまう。雨龍もカドが取れちまったなあと言われるでしょう。否定いたしません。ですが、根無し草的な立ち位置から放言するのが私でもあるのでお許し下さい。

【本論】
引越しした時のダンボールから転がり出てきたスト2の攻略本。編集者各位に1000万円のボーナスが出たとか言う時代の本です。これを見ると、今の単なるデータ集の攻略本がいかにつまらないかが分かる。昔の本は手探りだった。自由だった。しがらみの無さが、手作り感が実に温かく心地よい。完成度は今の方が高いかもしれないが。

いかにネットが進展しても、字を書く力がある人間(作家/編集者)は一握りしか居らず、金を出せるほど面白いことが書ける人間なんてどれほど居るか。機械的な攻略情報ではなく、ゲームをより楽しむ方法を提供したり、楽しんでいる姿を見せることがこれからの攻略本だと思う。これは攻略本に限らない話だろう。

ファストフードならぬファストブック化の進展は、最終的には寿命を縮めるのではないか。その姿は、自殺願望を持ちながら長生きしたいと願うような矛盾を孕んでいるように思う。身近な例で言えば、過剰な強壮剤を摂取すれば一時的に活性化するが、その後に来る三倍返しの疲労について知ってはいるが、全く考慮しない無茶苦茶な姿。徹夜で仕事をしても仕事の効率は上がらない。分かっていて強壮剤を使う。仕事が上がった後はボロボロで、疲労困憊、結局仕事が余計に進まない。そんな状況。

本当に「本」は誰もが読めなければいけないのだろうか。
誰にでも読めるような平易な内容で、かつ知識や語彙力を高められるのが最も良いだろうが、「ファストブック」ではこの両立は難しい。細々とした知識は邪魔臭いだけだし、語彙力に至っては「ごいりょく」とそもそも読めない。読めない本は駄目な本、つまらない本と評価される。そんな人間相手に下手に出ながら本を作り、売る事が本当に今後の為になるのか。

幾つかの出版社を覗き、一定数の社長、重役と会ってきたが、大手並びに関連企業はどこもかしこも「ファスト化万歳」「小さいマーケットは無視したほうが良い」などと、多くの人間に売れるコンテンツを持ってるから細々としたことに拘る必要は無い。というスタンスで本を作っている。

誰でも読め、理解出来るという事は、換言すれば「誰でも書ける」ということ。
私は、作家や編集者という生き物は天性の素質を持った怪物染みた人間で、その類稀なる文才は、沢山本を読んだからとか、本を偏愛しているからとかそういった表面的な努力では埋められない物だと思っている。

だからこそ、そんな天才と呼んで差し支えない人間がわざわざ、凡人に合わせて本を作り、凡人と同レベルになる事が許せない。この問題はゲーム業界が最も直面しているところだろう。凡人向けの作品を凡人が作るようになる。結果駄作しか生まれないし、売り上げや効率重視の経営の為に知識も技術も蓄積しない。上手くなるのはマーケットリサーチと販売促進、広告戦略ばかり。

天才を駆逐し、凡人が大量流入すれば即ち、コンテンツは無価値な物になる。
ネットが本を追い遣るのではなく、本がネットに擦り寄っている。

かつて本は字の読める人間だけの物だった。だからこそ一定の水準を保てた側面もあるだろう。しかし、今は違う。このまま本という一種の権威、プライドを切り売りして行けば、ネットと同質になってしまう。ネットと同質になるという事は即ち、紙のメディアは無駄金、出版社へのチャリティーになり下がる。

私自身は、卑しい売文屋をやってはいるが、出版乞食をやっているつもりはない。
その人が、墓場まで持っていけるような、最低でも10年付き合える本を目指している。
大手の経済力には勝てずとも、キラリと光る真の価値あるコンテンツを用意できれば、同じ土俵に上がれるものと信じている(そう思わないとやっていられない)。

経年変化で紙が黄ばみ、手垢や汗で汚れ、表紙が傷付くからこその「本」であるとも考える。デジタルデータは確かに素晴らしい。場所も取らないし便利だが、電子書籍が本棚から威圧してくるだろうか。本にはそういう力もある。私個人、是非とも実戦してもらいたいのが、紙の本を購入すると、電子書籍がダウンロード出来るサービスである。二度手間に思うかもしれないが、それは違う。本が書棚に並んでいる事がどれほど重要か。埋まった書棚は、自分の人生の一里塚(マイルストーン)である。ふと目をやった折に、自分に自信が湧く。身銭を切った感覚を忘れないで済む。デジタルデータではその感覚、感慨は味わえない。読むのはどちらでも構わない。紙に触れることで贅沢な気分になれるなら紙。利便性を求めるならデータだろう。

どちらか白黒つけたがる風潮も、単純バカのやらかす悪癖。何でもシンプルにすれば良いという物ではないはず。特に日本人なんだから。オリジナリティー、クリエイティビティーなどとヌかすなら、それこそ海外製品を持って嬉しそうにするのではなく、それを日本的に使うことを考えて欲しい。何でもパクって自国文化に醸造する天才であった日本人なら出来るはず。

ものづくりの現場に居る人間は、単純に時流に流されてはいけない。
そんな危うい足腰ではまともな物は作れない。というお話でした。

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