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【#001】『ハプスブルク家のお菓子』(関田淳子著/新人物往来社)

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ハプスブルク家といえば、欧州の名門。文化と栄華の代表者であると目されている。
その血統が生み出した、文化の中でもこと地域性が楽しめる食文化を紹介するのがこの本である人類は様々なものを、様々な形にして食べてきた。
食に対しての考え方は、中国のように医療としての側面を食事に求めるものから、
とにかく食べられればよいと考えるものまで多様であるが、元来、補助的な食事であり、
それがなくなったからといって、日常に支障をきたすわけではない「菓子」には、
特に文化が凝縮される。日々の健康から離れ、目にも美味しい食事である菓子は、料理人の遊び心が反映されやすい。


再度登場願うが、中国では冬瓜やスイカの種をアンにした饅頭や、ココナッツミルクにカエルの脇腹の脂肪を浮かせたスープがあり、中華料理の基本理念、体によい食事というものが見て取れる。医食同源とでも呼ぶべきか。
一方で日本では、菓子といえば水菓子ではないかと思う。アンのような人工的な甘さ、砂糖の甘さを享受できなかった我々の祖先は、果物の甘さがもっとも自然な菓子の甘さと考えたようだ。日本において自然の甘さという観点で見てみると、干し柿がもっとも甘いことになる。水菓子の甘さは干し柿の甘さを今でも越えていない。干し柿のトロリとした中身と甘さに、日本人の純朴さが感じられる。

さて、ここからが本題となるが、欧州の菓子といえば、砂糖大根から取った砂糖をふんだんに使う。
バターや生クリームといった脂肪分も存分に使われ、絢爛豪華で一口で甘いと感じられるものが多い。
マリア・テレジアなどは、毎日100皿もの菓子を作らせていたという。
肖像画に見られる王妃、女帝が一律に首がないのは、まさかそのせいではなかろうか?などと勘ぐってしまう。

私が特に気になったのは、ファッシング・クラプフェンと、トプフェン・トルテである。
前者はあんずのジャムかカスタードクリームが入っている揚げドーナツであり、後者はいわゆる「トルテ」である。
トルテでもっとも日本人に馴染みが深いのは「ザッハトルテ」であろうが、トプフェン・トルテは、チーズトルテといえば分かりやすいだろうか。濃厚なチーズケーキのような風貌で、しっとりとした断面が濃密な旨みを約束しているかのようである。

ここで興味深いのは、これらトルテを作る際、甘みをつけた水にレモンとバラを入れて抽出した「バラ水」なるものが使われることだ。ザッハトルテなどは、小麦に対して1:2の割合で砂糖を入れ、小麦1に対して1.5の割合でバターを入れるとんでもないレシピで、周りをチョコレートでこれでもかとコーティングするのだが、「バラ水」という隠し味、どこか民間信仰的で神秘的な要素が含まれていると思うと、欧米人は甘ければなんでもよいのだろうという思い込みが少し晴れたような気がしてくる。

ちなみに、アメリカでは生クリームが日本でいうシェービングクリームや整髪ムースのように出てくるスプレー缶を持って、止まっては生クリームを食べ、止まっては生クリームを食べ、している人間がいる。
食は文化なり。古い菓子類は、現代へ受け継がれる源流であり、素朴な味わいが人々の心を癒す。
小手先だけの変化球や、高級なデザートを盛っただけのスイーツとは違う、歴史に裏打ちされた品格も一緒に食べてみたいものだ。

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