恋のキューピッド焼野原塵が遂に完結しましたね。運命に定められた誰とも結ばれることのない主人公を助けにやってきたのは、到底キューピッドなどには向くとは思えない魔界最強の男。そんな荒唐無稽なストーリーが展開される異色(画力的にも)作。この3巻にも収録されていますが、読み切り版を呼んだとき、ジャンプ編集部も思い切ったもんだなと関心したものです。
表紙は著者の長谷川智広先生が美大出身で油絵が得意とのことで、約900×600mmのキャンバスに描いた塵。マンガの画力と風景画はね、違いますんでね。カラーで絵を描くと、油絵畑の出身なんだろうと思わせるものがありましたが、やはり、と。世間の画商は笑うのかもしれませんが、美術のわからぬ私なぞには、自身の出世作を魂込めて描いたという事実の方が美しいように思います。気迫のあるいい絵ですよ。
さて、今回の帯ですが、本誌でもキャラ入れ替え四コマなどで絡みのあった『ニセコイ』の古味先生が推薦文を寄せています。まあ、見てはいけない。絵を見比べてはいけない。さっと描いたであろう他人のキャラを……ねぇ?(画:古味直志と明記しておかないと色々マズいレベルにあります)
そもそも古味先生の『ニセコイ』は、『恋染紅葉』『パジャマな彼女』といったジャンプとしては類い稀なるラブコメ戦国時代の中を勝ち抜いてきた作品であって、画力という面で見た場合、ジャンプ最上位グループ対、最下位グループ。しかし、本誌本作を読んでいればわかるように、マンガのおもしろさは絵の巧拙だけでは語れないわけです。
焼野原塵の魅力は、なんといっても文字を読ませるマンガであること。読者は絵を見ているつもりなのに、気づかぬうちに相当量のテキストを読んでいる。一般的な意味合いとは少々異なる「読ませる力」がある。この読ませる力はリズムであり、言葉選びであり、画力とはまた違う著者に備わった「周期」による部分が大きく、これもまた立派な才能です。
読ませる力に画力が追いつけば、きっと押しも押されもせぬ連載作家になることでしょう。恋のキューピッド焼野原塵、一度お読みになられてはいかがでしょうか。