つるピカハゲ丸といえば、90年前後にコロコロコミックを読んでいた読者であれば記憶の片隅に残っているであろうタイトルかと思う。その著者のむらしんぼ氏は還暦を迎えなお、少年向け漫画家として生きる漫画と心中する男。
こう書けば、コロコロコミックから離れて久しい読者からすれば、20年以上最前線で子どもという一番見えにくい市場相手に健闘しているのだろうと思われるかもしれない。実際、「ギエピー!!」で有名な『ふしぎポケモンピッピ』の著者、穴久保幸作氏はコロコロの連載を継続い続けているし(くにおくん→ポケモンで20年以上毎月継続掲載中)、『スーパーマリオくん』の沢田ユキオ氏にいたっては、マリオくん単体で26年間連載を維持している。子ども市場は毎年大人主導のブームで変化するが、子どもの本質は20年程度では変わらないということなのだろう。
ただ、のむらしんぼ氏の場合は違う。残念なことにまるで違うのである。かつての栄光は今いずこ。連載されてはすぐに打ち切られる短命漫画家。そこに追い打ちをかける家族とのすれ違いと離散。貧困。先の両名と連載時期も年齢も条件はほぼ同じ。しかし、結果はこうである。理由はいくつかあろうが、最も大きいのは古さ。26年継続連載している作品があるのに、古さとはこれいかにと思われるだろうが、子どもたちは素直で残酷である。漫画の機微を敏感に感じとり、古さに対して嫌悪しているのである。偉大なるマンネリになりきれなかった著者が、新たな媒体と機会を得たことでスタートしたのが本作『コロコロ創刊伝説』である。
漫画に詳しい読者には釈迦に説法だろうが、コロコロは約40年前。1977年に創刊した児童漫画雑誌である。当時大ヒットしていたドラえもんは、小学館の学年誌(小学五年生など)の稼ぎ頭で、これを柱として学習雑誌ではなく、児童向けの漫画専門誌を作ろうというのがコロコロの出発点である。のむらしんぼ氏はこのころから作品を描かれており、(連載もなく手が空いていたこともあって)コロコロの創刊を語れる数少ない著者なのである。
氏の見てきた漫画の世界。出版の現実は、当然厳しい。なんの後ろ盾もない若造を捕まえて、馬車馬のように働かせる。働かせる側といえば肩で風切る一流企業の社員といういびつな業界。それが出版界。その苦難をそのまま誌面に載せれば、それはただの愚痴であり、後味の悪い人生譚にしかならないが、のむら氏が持つ古さ、時代にそぐわないバブル期特有の軽薄さがここで活きる。苦悩もギャグにすり替わるのである。
作家と編集者がまだ近かったころ。血の通い合った関係であったころの漫画の世界。艱難辛苦を乗り越えていく、のむら氏とコロコロ編集部をぜひご堪能あれ。
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