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【#003】『エスキモーに氷を売る』(ジョン・スポールストラ/きこ書房)

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本書を読んでも、エスキモーに氷は売れない。
彼らはアザラシの肉などを保存するために冷蔵庫を使っているし、
アメリカの警察が河川管理に使うような最新鋭のボートで流氷から流氷へ
狩り場を求めて移動している。近年は食の欧米化もすすみ、エスキモー文化の消滅も
危惧されるようになったが、まあ、くどくどいっても仕方ないところで、
とにもかくにも、どうあっても基本的に氷は売れんということです。
だもんで、エスキモーのお話を私らしく少しさせていただいてから、
本書のポイントを解説させていただこうかなと思っております。


エスキモーの老人は、自ら死地を求めて家を出る習慣がかつてありました。
いわゆる姥捨ですが、捨てに行くわけでもないので、適切な表現ではないかもしれません。
また、エスキモーは客人をもてなす際、男性には自分の妻の具合をみさせるという習慣も
あったとされています。直接的にいえば、他人の家に行けば、そこの奥さんと性行為が
できるということです。もちろん、もてなしてもらった場合は、今度は自分がもてなさなければ
なりませんから、自らの奥さんを提供するということになるのですが。
このあたりはちょくちょく触れられる部分で、エスキモーに関する著作では奇異の対象として
描かれています。

さて、エスキモー談義もこの辺にして、本書のタイトルについて考えたい。
ありがちな、編集者のアクセル踏み込み過ぎ現象です。
「Ice to the Eskimos」とあることから、原題の時点でやらかしてしまっていたのでしょう。
日本で訳書を作る際、タイトル変更が認められなかったのか。
本文にはこのような表現は見つけられなかったので、少々残念に思う。
売らん哉な商売も致し方ないが、タイトルロンダリング、タイトル詐欺はやり過ぎ注意である。 

本書はニュージャージー・ネッツ(現ブルックリン・ネッツ)という超弱小球団が…
強くなることはありません。 『マネー・ボール』のようなサクセスストーリーはないのです。
むしろ、そうではないからこそ、多くの企業に活かすことができるともいえます。 
本書の核心は「売れないクズ商品を、詐欺的手法を用いずにいかに売るか」にあります。
これさえ理解すれば、あとは枝葉末節。どうでもいいことです。
ネッツというダメ球団でも、チケットを買い、応援してくれる人がいます。
それでは、その人たちにもっとアプローチしましょう。ファンは最高の顧客です。
ファンの財布の紐を緩ませる。これが一番です。
買うかどうかわからん輩にいくらアプローチしてもどうなるかは不透明ですが、
買った実積のある人間に売ることは容易いのです。

これはマーケティングの古典です。私も肌で感じています。
新規開拓より、既存客にもう少しだけ買ってもらうほうが、体感で10倍楽です。
データを見ても5~8倍売りやすいと数字になって出ています。
つまりは、顧客情報をないがしろにしていては、クズ商品は売れないということです。 

クズ、クズといっておりますが、品質が低いということではありません。
品質が高くともクズはあります。端的に申せば、ナンバーワン以外はすべてクズです。
つまり、世の中の大半がクズ商品です。あなたの会社のアレやソレ、すべてがクズ。
よくよく調べれば買うに値しない、二番手以下の商品です。
しかし、それでも売れていく。なぜか?顧客がそれ以外の方法を選ばないからです。
どうして選ばないんでしょうか。単に無知だから?人付き合いの関係上仕方なく?
いずれにせよ、あなたは選ばれているわけです。選ばれた以上はその顧客に全力でなければ
なりません。当然です。倫理的なハナシをしているわけではありません。
新規開拓に全力を出しても成果は1倍ですが、既存客に全力を出せば5~8倍の成果が出ると
数字が証明しているからです。新しい客づくりにばかり目がいっていると、
忘れてしまいがちですが、既存客は重要です。釣った魚にエサはやらんという慣用句は、
商売には通用しないということです。

さて、ここで経営者とはなんであるかを考えたいと思います。
経営者の仕事は、法務のために顧問弁護士とダラダラ会議することでも、
金のために銀行の担当者と打ち合わせることでもありません。
経営者は、営業マンの相手をしていてはいけません。
相手をすべきは顧客なのです。
私は編集者時代に何度も味わいました。
編集プロダクションの売り込み、印刷会社の営業、広告代理店の担当者が変わっただの…。
そんなのは「総務」が片付ければ済む話。俺に持ってくるな!という憤りを。
経営者の中には、こういった雑務を片付けるのが大好きな人間がいます。
社長室で内線をとるだけの仕事です。それが至福の時なのでしょうが、
そんなのは社長じゃなくてもできます。
秘書室からひとり秘書を読んできて座らせておけばいいハナシです。

経営者は企業の顔。最高の営業マンでなければなりません。
経営者は顧客の気配を感じられる距離にいなければなりません。
直接顔を見ずとも、顧客と直接やり取りする部署をくまなく見てまわるか、
その部署の責任者と細かく打ち合わせをする。それが経営者の仕事です。
銀行に「金を借りてくれ」といわれるのは、経理の担当者でよろしい。
顧問弁護士に訴訟がどうこうといわれるのは、法務やらの担当者でよろしい。
雑事専門の副社長を置いてもよろしい。

頭にハチマキで現場の雰囲気を常に感じておかないで、会社の何がわかるのか。
市井の人たちの息づかいを知りもせず、何を生み出し、何を売る気なのか。
そんな基本的なことを教えてくれる著作です。
これから社会人になる方、社会人になったばかりの新人さん、
基本に立ち返りたいと思ったベテランさんにオススメできる一冊です。


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