細かな数字が掲載されており、数字を眺めるのであれば意味はあるのだろうが、内容的には現場に居合わせようが、居合わせまいが理解出来ているようなものばかりで、特に注目すべき内容は少ない。本書は大学の後輩の論文発表の為に一読したものだが、わざわざ読むほどのものでもなかった(専門用語の理解には役立った)と感じる。当然、自身と親和性の高い分野であるからで、全くアニメ産業が理解出来ていない院生や指導者からは概ね好評であった。そういった副読本として研究者が所有すべき書籍ではないか。
さて、私個人が本書を読んでいて最も気に入ったのは、「人材不足」の項である。人材不足は常に語られ、酷い労働環境の中で馬車馬も裸足で逃げ出すような状態であることは、アニメを知っている人間の多くが理解しているところであろう。しかし、アニメと一口に言っても、その人材不足は現場の制作サイドだけでなく、原作者にも来ている。これは、ニーズの細分化という謳い文句の駄作のアニメ化が横行している昨今、極めて顕著な人材不足ではないか。また、それに伴い駄作を面白く仕上げる監督、プロデューサーの人材も不足していることは容易に想像できる。
クールジャパンと言ってみたところで、結局のところそれは過去の遺産でしかなく、ジャパンアズナンバーワンともてはやされた結果、勘違いした日本がここにあるように、そう遠くない未来に国産アニメの衰退すら予感させられる。日本人の客観的に物を見る目の無さは、世界でも誇れる低水準だ。誰かに評価されなければ何も消費できない国民性が定着した今、かつてのような傑作を生む土壌も、評価(消費)する土壌も無い。少子化、粗製乱造、マンガをアニメに起こし、それを実写(ドラマ)にしなければ理解出来ない(しない)人間の存在など、問題は山積している。ジャパニメーションと言われて誇らしげにしている連中の中にも居るだろう。「アニメ・マンガはオタクの見る物」などと、手柄だけ自分の物とする日本人が。娯楽としての歴史を重ねる度に、不用な細分化とレッテルを加え続けてきたアニメの未来は暗い。
かつて一度もアニメ不況は来た事が無いと認識しているが、「スキモノ」による実利を考えない隷属的運営の上に成立している産業は、有能な人材を確保することは難しい。「アニメは趣味」と割り切ることが出来る有能な人材が、わざわざそのような苦しい職場を目指すとは考えにくい。これはアニメ産業に限ったことではないが、「クリエイター」ではなく、偏重した「オタク」によって産業が支えられるようになると、決まって駄作が増加する。
良好な人材を確保するには、良好な労働環境が必須だ。となると、アニメ不況は今のビジネスモデルを貫く以上、そう遠くない内にやってくる。無能な人材と、それを消費する無能な消費者の中で完結してしまう産業となれば、益々「オタクの見る物」という色合いは強まり、一層有能な人材は集まらない悪循環に陥る可能性がある。アニメの現場から様々に検討を加える為の足がかりとして手元に置いてみてはいかがだろうか。