編集者は並の人間だと2~3人分は働いてるらしい。でも、先輩方は3~5人分、上の人なら7、8人分は働いていて、今にも糸が切れて飛んでいきそうなくらいのギリギリっぷり。給料だって大したことはない。3倍働いて1.2倍。5倍働いて1.5倍。10倍働いても3倍。それでも編集をやっていこうと思えるのは、結局は本が好きだから。
と言われるが、自分はそうじゃない。
他人から時間を奪えるから編集をやってる。
誰か知らん人間の前に立ちはだかって、何時間も監禁したら刑務所で本当に監禁されてしまうけど、本なら合法的に他人の時間を奪える。人様の真正面に立ちはだかっても法に触れない。何より、人様の前に立ちはだかったら、その分自分の時間も失っちまって、結果プラマイゼロ。
書店で自分の作った本を眺めるその十数秒。レジまで持っていく数分、
わくわくしながら帰る小一時間、読んで満足する三時間。これを奪いたい。100人から奪えば、300時間くらいはむしり取れる。1000人なら3000時間。自分が使った150時間は、多くの読者の時間の合算でいけば何十倍になって戻ってくるわけ。
それで何が得られるって言われても困る。本が好きってのは、端的に言えば変質者なんだから、露出狂や病的な痴漢、極度のフェチに倫理や道理、常識を説かれてもなぁ。